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コラム

2008年1月15日

教育投資を考える―個人を大事にしたほうが経済効果も高い?

2000年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大のヘックマン教授らの一連の研究は興味深い。
彼は、神経生物学者のクヌーズセン米スタンフォード大教授との2006年の米国科学アカデミー紀要誌での共同論文で「経済学的にも神経生物学的にも、将来の労働力を強化し生活の質を高めるための最も効率的な戦略は、恵まれない子どもたちの幼少期の境遇を改善することだ」と主張した。
これは、恵まれない子どもに対する長期の介入実験の経済学的な解析結果と、脳の発達メカニズムに関する脳科学の研究成果の学際的な研究成果といえる。
ヘックマン教授は、ペリー就学前計画という就学前の恵まれない子どもたちに教育支援を行った実験的政策の効果を明らかにした。
3-4歳のアフリカ系米国人の恵まれない子どもたちに行った午前中の学校での教育と午後から先生の家庭訪問を含む二年間の介入実験では、同じような境遇にある子どもたち同士を40歳になった時点で比較すると、介入実験を受けたグループは、高校卒業の比率、所得、持ち家率が高く、婚外子をもつ比率、生活保護受給率、逮捕者の比率が低かった。
これは、介入を受けた子どもたちが高い学習意欲をもったことが原因だという。ペリー計画の投資収益率は、15-17%という非常に高いものになるという。生後4カ月からの介入を行った別の介入実験では、知能指数(IQ)も高まったそうだ。
同研究では学校教育段階になって恵まれない子どもたちに援助をしても、就学以前の家庭環境が悪いとあまり効果がないことも明らかにされている。
米国の研究によれば、親の所得階級による子どもの数学の学力差は、6歳時点において既に存在し、その学力格差はその後も拡大を続ける。ただ、就学以前の段階できちんと教育を受けていれば、学校教育での援助は大きな効果があるという。つまり、家庭環境に恵まれなかった子どもに、学校教育以降でのみ援助しても効果がなく、就学前段階での援助と組み合わせることが重要だというのだ。
こうした発見は、脳の発達に関する研究成果とも対応するとヘックマン教授らは指摘する。
様々な認知能力・非認知能力の発達には、臨界期が存在することが発達神経科学の研究で知られている。第二外国語の発音は、12歳以下で学ばないと不完全になる。白内障にかかって生まれた子どもは、生後1年以内に手術をしないと視力を失う。つまり特定の年齢層で発達すべき能力が適切に発達しないとその後の教育効果は小さいということだ。

一方で私たちはこのような「科学」がはやった時代を思い出す必要があるだろう。1960年代―高度経済成長期の幕開けの頃である。
あの頃は幼児教育の重要性が叫ばれ、結果的に「母性論」(母親が子育てに専念すべきという論)に陥ってしまったり、幼児教育の誤った過熱から反って「教育をしない」方向へ世の中が傾いてしまったが、今日の私たちはそのような過去を経験し今を生きている。
家族だからといって望ましい関係を築けない人は沢山いることも、その背景に経済負担の影響などもあるということも女性にも母以外の生き方が必要であることも見知っている世代である。
また「教育をしないこと」は結果的によい効果はあまりないことにも、気付かされつつある世代でもある。
1960年代も近年も、このような話題が経済界の要請で強く意識されるというのはなんだか皮肉なような気もするが、徐々に本当の意味での個人化が進むよう、つまりどのような境遇で生まれてこようとも自分の能力を信じ、活かせる人になれる社会基盤が整うよう、大きな流れが作られることは大変うれしいことである。

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